2020年9月18日金曜日

ハイキングの安全学

 書き忘れていたので。アマゾンより自主出版



はじめに



ここ10年は毎夏一ヵ月ほどアメリカに行ってハイキング(いわゆるトレッキング)をしていた。アメリカのハイカーと議論を戦わせることも多かった。その関係で、ハイキングに関するさまざまなトピックに関して、必要とあれば学術論文を検索し、読んで考えるようになった。その成果をまとめたのが、「ハイキング・ハンドブック」(新曜社、2013/2014年)である。残念ながら、この5~6年に明確になったことを書く機会がない。

 日本の山関係の雑誌やウェブ記事を見る機会が増えた。きれいな画像で飾られていて、ファッション雑誌のようである。内容は変化するが、進歩から取り残されているようだ。数十年前の内容が焼き直されている。

 アメリカのアウトドア雑誌でも似たようなものだが、若干、進歩はしている。それで、日本の遅れが目立つようになった。単なる流行の遅れはよいのだが、命に関わる知識も遅れている。

 例えば、SOS発信装置の販売は、アメリカに遅れること8年である。遭難時にSOS発信ができればピン・ポイントで救助できる。捜索活動は、本人か、その関係者が救助依頼しない限り、開始できない。どうして持とうとしないのか、筆者には理解できない。年契約で月12ドルである。どこでもメールの送受信ができるし、山岳保険としては格安ではないか。

 高山病への対処法も知らない人が多すぎる。対処を間違うと命に関わる。2019年に高山病予防のガイドラインが改訂された。適切な知識があれば、高山病で命を失うことはない。

 日本では、毒蛇に咬まれた時にポイズン・リムーバーを使うという人が多い。残念ながら、効力がないと科学的に否定されている。これをエマージェンシー・キットに含めている人がいたら、信用してはいけない。さすがに、アメリカ人ハイカーでもこの話題を出すと笑われてしまう。

 「ハイキング・ハンドブック」と記述に若干の重複はあるが、歩き方、テント泊、衣服、食事などでも、安全性に関係する事柄は、圧縮して取り出し、最新の内容を補足した。また、可能な限りコンパクトにまとめた。なるべく新しい知識を吸収し、安全なハイキングをしてほしい。 

目次
第1章 プランニング
 いつ、どこへ、だれと/準備/山の攻略法
第2章 靴の選び方
 ブーツとシューズはどう違うか/マメを防ぐには/靴の調整/
 インソールは/ソックス/ミニマム・シューズは危険
第3章 効率的な歩き方
 歩行の原理/トレッキング・ポールを使う/適度なふらつき/
 重い靴は疲れるか/疲れない歩き方
第4章 荷物を背負う
 バックパックの種類/バックパックの選び方/バックパックの重心は/
 パックパックのどこが壊れるか/筆者のバックパック/パッキング
第5章 衣服の選び方
 基本原則/コンプレッション・タイツは/レイン・スーツ/
 紫外線よけ/寒さに強くなるには/筆者の場合
第6章 夜を過ごす
 テントの種類/強風下で立てるには/状況に応じてペグを使い分ける/
 筆者のテント/トラブル発生/スリーピング・バッグ/マットレスは不可欠/
 野外トイレの作法
第7章 食事
 ストーブ/事故防止には水/浄水器があれば/なにをどれだけ/
 エネルギー消費の計算/自家製ヒートパック/サプリは効果があるか/
 食事例
第8章 危機に対処する
 実証的研究では/道迷い、転落、気象遭難/日本では捜索はどう行われるか/
 SOS発信装置を持とう/捻挫・打撲・肉離れ・筋肉痛/
 低体温症/高山病/毒蛇に咬まれたら/渡渉/エマージェンシー・キット





4 件のコメント:

黒岩平 さんのコメント...

「ハイキングの安全学」アマゾンで購入し、興味深く読ませてもらいました。
ポイズンリムーバーについて質問があります。
蛇の咬傷など深い傷にポイズンリムーバーが無効なのは理解出来るのですが、
虫刺されなど浅い傷でもポイズンリムーバーは無効なのでしょうか?

Hiro さんのコメント...

虫についての研究例はありません。もともとは毒蛇に対して作られた物で、効果がないので、メーカーが虫刺されにも効くと宣伝し、販売戦略を転換したのでしょう。したがつて、効果は気休め程度でしょう。ブユやアブなんかは、表面の肉を食いちぎるだけで、毒はありません。蚊も毒というほどの毒ではないでしょう。ポイズン・リムーバーより、かゆみ止めの方がよいでしょう。

黒岩平 さんのコメント...

お返事ありがとうございます。私も効果に懐疑的でしたが大手掲示板でちょっとした論争になってました。
おかげですっきりしました。

Hiro さんのコメント...

書き忘れましたが、蜂の針は注射器みたいですから、無理ですねえ。ちゃんとした研究例はありません。アメリカでは10 essentialを忘れないようにと教育されるのですが、REIのemergency kitは過剰ですが、それでさえ、poison removerは入っていません。つまり、アメリカのハイカーでは持つことは推奨されていません。
https://www.rei.com/learn/expert-advice/ten-essentials.html