2019年7月23日火曜日

The 2018 Lake Louise Acute Mountain Sickness Score

レイク・ルイーズ・急性高山病評価尺度2018年版


が改訂された。元論文はここ

1993年以降、レイク・ルイーズ・急性高山病評価尺度は、急性高山病の症状評価で世界的に研究で用いられてきた。日本でも日本登山医学会編集「登山の医学ハンドブック」(杏林書院,2009)に紹介されていたほか、筆者も「高山病をどう回避するか」(富山大学人間発達科学部紀要, 2017)に記載した。

長い間、議論になっていたのは、診断基準に睡眠障害を含めるか否かである。睡眠障害は頭痛・消化器症状・疲労・めまいなどの症状と異なったクラスターであった。複数の因子分析的研究の結果、このことが確認された。そこで睡眠障害を「低酸素症」として、これを評価尺度から切り離し、少し詳細化されている。内容を次に示す。

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頭痛
  0 ... なし
  1 … 弱い頭痛
  2 ... かなりの頭痛
  3 ... 頭痛が酷くて何もできない
消化器症状
  0 ... 食欲に問題なし
  1 … 食欲不振、もしくは、吐き気
  2 ... かなりの食欲不振、もしくは、かなりの嘔吐
  3 ... ひどい食欲不振、もしくは、ひどい嘔吐で、何もできない
疲労感/脱力感
  0 ... 疲れていないし、弱ってもいない
  1 … 少し疲れていて、弱っている
  2 ... かなり疲れていて、弱ってもいる
  3 ... ひどく疲れていて、弱り切って、何もできない
めまい感/もうろう感
  0 ... めまい感やもうろう感はない
  1 … 弱いめまい感、もしくは、もうろう感がある
  2 ... かなりのめまい感、もしくは、かなりのもうろう感がある
  3 ... めまい感やもうろう感がひどくて、何もできない
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急性高山病の診断は、高所へ移動してから6時間以内に症状が現れた場合に行い、症状に頭痛が含まれ、かつ、消化器症状、疲労感/脱力感、めまい感/もうろう感 のうち二つの症状が含まれるとする。そして、上記の評価尺度の合計点で、3 ~5点は軽症、6~9点は中等症、10~12点は重症と診断する。

この尺度は研究者向きのもので、臨床家、山岳ガイド、素人が急性高山病を診断するために設計されたものではない。臨床家は症状に頭痛がなくても、この尺度で合計点が3点以上なら急性高山病として取り扱っても構わない。

研究者が急性高山病の全体的な症状を評価するときは次の尺度を用いる。
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急性高山病臨床機能得点
 急性高山病の症状があるとして、それはあなたの活動を全体としてどの程度妨害していますか。
  0 ... ぜんぜん
  1 … 症状はあるが、自分の活動や予定に影響はない
  2 ... 症状のために、登山を止めざるをえず、自力で下山するほかない
  3 ... 低地への緊急搬送が必要
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2019年7月20日土曜日

Wilderness Medical Societyの高山病予防ガイドライン2019年のupdateの一部紹介

Wilderness Medical Society Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Acute Altitude Illness: 2019 Update の一部紹介


高山病をどう回避するか  

この論文は2017年に富山大学人間発達科学部紀要に掲載した。PubMedで論文検索をして、2016年時点の研究までを含めたレビューになっている。その後の進展としてはレイク・ルイーズAMS自己評価尺度の改訂ほか、いくつもの研究論文が現れている。Wilderness Medical Societyの論文のニュアンスも変化している。高所脳浮腫(HACE: high altitude cerebral edema), 高所肺水腫(HAPE: high altitude pulmonary edema)の治療法が詳しいのだが、急性高山病(AMS: acute mountain sickness)の予防や治療を中心に紹介する。

AMSとHACEの予防 

ゆっくりと登る  これが最善だが、ランダム化比較試験はない。二つの研究によると、2,200m~3,000mに6~7日滞在すると、4,300mに登っても急性高山病のリスクが小さいという。なお、2010年のガイドラインは「標高2,500~2,800メーターへの移動に二日以上かけて、その後、就寝時の標高の上昇を一日に500メーター以下とし、標高の上昇1,000メーターに付き、休養日を一日設ける」である。

アセタゾラミド(商品名:ダイアモックス)AMSのリスクが高い人が高所へ行く場合、強く推奨される。AMSとHACEの予防に有効。アセタゾラミドは高所順応を促進する。運動能力を阻害することはあるが、影響はわずかである。投与量は125mg/12hである。子供では2.5mg/kg/12h。

デキサメタゾン デキサメタゾンは高所順応を促進しないが、AMSとHACEの予防に有効である。投与量は2mg/6hか4mg/12h。子供には使用不可。

イブプロフィン AMSの予防に有効。投与量は600mg/8hである。イブプロフィンの研究が蓄積されたので、はっきり書かれるようになった。なお、これは非ピリン系の鎮痛剤なので、エビデンスはないが、ロキソニンでも効くようだ。

効かない薬物  吸入ブデソニド(喘息治療薬)、ギンコ(イチョウの葉のエキス)のサプリ、アセトアミノフェンは推奨されない。

低圧室と常圧低酸素室 

低圧室や常圧低酸素室が高度順応への準備手段として用いられる。多くの研究があるが結果は一貫しない。低圧室の条件が異なるためであろう。一般的に低圧室での滞在が数時間以内の場合は、高所順応を促進しない。一日に8時間、もしくは、7日を越える場合は、利点がある。もちろん、低圧室の方が常圧低酸素室より高所順応には望ましい。

低酸素テント クライマーがよく用いるが、身体能力を改善するとか、登頂の確率を上昇させるというデータはない。睡眠の質が低下し、長期的には遠征中の身体能力が低下するという欠点がある。

その他

コカの葉を咬んでもエキスを飲んでもAMSの予防に効くという研究はない。また、短期間の酸素吸入に関する研究はなく、一缶2~10Lの酸素吸入が高山病の予防や治療に効果があるとは考えられない。つまり、富士山など利用されている酸素缶には利点がない。

AMSとHACEの治療 

高度を下げるのがベストの治療法である。一般的に300~1,000m下げると症状は消失する。高度を下げられないが、酸素を供給できる場合はSpO2>90%となるまで供給する。持ち運べる高圧室があれば治療は可能であるが、高圧室から出すと症状が再発する。薬物では、アセタゾラミド(250mg/12h)がAMSに用いられる。デキサメタゾンはAMSの治療に効果的で、4mg/6h、子供には0.15mg/kg/6hである。HACEにも用いられる。アセトアミノフェンとイブプロフィンは頭痛に効くが、重篤なAMSとHACEに効くか不明である。


2019年7月16日火曜日

Spring Chicken




やっと読んで内容をまとめた。良い本だったようだ。
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Spring Chicken

訳語は難しいが、サブタイトルのstay young forever(永遠に若く)という意味だろう。Business Insiderに紹介記事があり、Biosphereのことが紹介されていた。それで、Biosphereの解説書かと思ったが、アンチエイジングに関する啓蒙書だった。

1章と2章はエピソードとエイジングの話で、あまり印象に残っていない。3章から成長ホルモンの話題になる。1980年代初め、ホルモンが若さの秘密だと考えられ、販売する会社がいくつも現れた。ただ、研究が進むと、ホルモンは加齢を加速するようだった。女性ホルモンは癌化を促進するし、男性ホルモンは心筋梗塞を引き起こす。1997年には成長ホルモンがアンチエイジングの妙薬として脚光を浴びたが、やはり期待とは逆に加齢を促進することがわかった。

4章は加齢の長期縦断研究の紹介で、運動能力が高く、血圧、LDLコレステロール、BMIが低い人が長生きするが、逆の人は老人性痴呆を発症する危険が大きい。5章は100歳以上長寿者の話。長寿者は素晴らしい完全な遺伝子を持っているのではなく、高齢者特有の病気に対する対抗遺伝子を持っているのではないか。6章は問題の中心と称して血管やコレステロールの話。100歳の長寿者はLDLコレステロールが低いということがわかった。一方、HDLコレステロールは高い方が良いようだ。ただ、スタチンでLDLを下げても死亡率を下げることはできない。さらに13万人以上の疫学研究によると、冠状動脈のトラブルがあった人の半数はLDLコレステロールが低かった。コレステロールは生体に不可欠な栄養素である。LDLの数値ではなく、LDLを運ぶタンパク質分子が大きく、数が少ないほど良いという。これがアポBで90以下が望ましいという。一方、アポA-1はコレステロールを除去するタンパク質なので、これは多い方がよい。

7章はハゲの話から始まり、有害な遺伝子の蓄積が加齢の原因ではないかという方向に議論を転換する。8章は細胞に焦点を当てる。正常な細胞では細胞分裂の数に上限があることが1965年に発見され、ヘイフリック限界と呼ばれる。細胞分裂の数を制御するらしい遺伝子配列がテロメアで、これが老化に関係すると言われる。ただ、4500名の大規模疫学研究によると、飲酒や喫煙の要因をコントロールすると、テロメアの長さと死亡率とは関係が無かった。細胞は癌化するか、老齢化するか、どちらかで、老齢化すると慢性的な炎症を起こす。

9章は超肥満と運動の話。フィルはBMIが45で腹回りは身長に近い。糖尿病も患っていた。内臓脂肪はレプチンを少ししか分泌しないので、食欲は抑えられない。内臓や血管と密接に融合しているので、手術で除去するのは難しい。フィルはそういうタイプだった。そこで、ジムに行くほかなかった。また、フライした食べ物やファスト・フード、甘いソーダなどグリルしたチキンや魚、無塩のアーモンドなどに代えた。4年間でフィルは200パウンド減らし、運動を続け、260パウンド以下にしつつある。

10章はシニア大会の参加者の取材から。ブースはミシガン州立大学の生理学の教授で、競技と加齢の両方に関心を持っている。大学では棒高跳びの選手だった。彼はランニングや自転車を続けていたが、シニア大会の棒高跳びの記録を調べると、自分でもできそうに感じた。引退後の楽しみとして、60歳の時に棒高跳びに復帰した。継続的にトレーニングを続けると、癌など、加齢に伴う病気にかかりにくくなる。最大酸素摂取量VO2Maxの低下も小さくなる。トレーニングは慢性的な炎症を下げて、オートファジーがさかんになり、傷んだ細胞を除去する。端的にはトレーニングは若い遺伝子をオンにし、老いる遺伝子をオフにする。ミトコンドリアの機能不全が老化の原因かもしれない。

11章はカロリー制限の話。ルイジ・コーナロ(Alvise Cornaro, 1484-1566, ベニスの裕福な商人)は30代後半に糖尿病にかかり、医者からライフスタイルを変えるように言われたが、従わなかった。症状が進み、どうにもならなくなったので、食生活を、パンを少しとわずかな肉、魚などと薄いスープを摂るだけにした。彼は健康を取り戻し、「おだやかな生活について」(Discourses on the Sober Life)という本を1558年に出した。この本はダイエットの本としてベストセラーになり、あらゆる言語に翻訳された。この本がカロリー制限すると長生きできるというアイデアの原点で、マッケイは1917年にラットでカロリー制限の実験を行い、長生きすることを実証した。カロリー制限下では代謝系が変化するのかもしれない。1990年代、WalfordらのBiosphere 2という閉じた系で暮らす実験を行ったが、食物生産が足りず、必然的にカロリー制限の人体実験となった。飢え死にしない程度の厳しい結果となり、スタッフはやせ細った。Walfordも破壊的影響を被り、Biosphereから出た時は老けてしまった。その後、酷いうつ病になり、パーキンソン病に類似した症状が現れた。神経系も壊れたようだ。彼は2004年に筋萎縮性側索硬化症で死去した。一方、ウィスコンシ大学ではサルのカロリー制限の実験を1980年代から行い、2009年に発表した。結果は衝撃的で、30%ほどカロリー制限したサルが30%ほど長生きし、外見も脳の組織もはっきりと若かった。ところが、アメリカ国立老化研究所のカロリー制限の研究では逆に太ったサルが長生きし、カロリー制限されたサルは平均以下しか生きられなかった。実は、二つの実験ではエサが大きく異なっていた。ウィスコンシン大学のサルのエサは砂糖が30%含まれた精選された穀物だったが、国立老化研究所のサルのエサは穀物や魚などのホールフーズで、砂糖は5%程度しか含まれていなかった。つまり、ジャンクフードなら厳しくカロリー制限しないと長生きできないが、もっと長生きしたければ地中海食が良いということに過ぎない。

12章は冷水浴の話から。人間の身体は冷たい水に晒されると、大きなストレスを受けるが、褐色脂肪組織を活性化させる働きもある。ただ、酸化反応はフリーラジカルを生む。1960年代に老化のフリーラジカル説が完成した。そこで、抗酸化サプリが大量に消費される時代になった。ところが、23万人にも及ぶ大規模疫学研究の結果、ビタミンA, E, ベータ・カロチンの摂取は死亡リスクを高めることが明らかになった。つまり、老化のフリーラジカル説は単純でエレガントだが、間違っていた。抗酸化サプリはトレーニング効果を台無しにするので、無用ではなく、有害である。つまり抗酸化サプリは活性酸素に対する抵抗力をそいでしまうので、活性酸素のダメージを受けやすくなるようだ。

13章は短期間の断食の話。1950年代にスペインの老人ホームで、半数の入居者に食事を通常の分量を与えたが、半数の入居者には量を半分にしたり、2倍近く与えた。その結果、通常の分量を与えた群の死亡者は13名、一方、与える量を変化させた群の死亡者は6名だった。スペイン語で発表された論文なので、長く注目されなかったが、短期間の断食は細胞レベルで代謝を変えるようだ。カロリー制限を続けるのは容易でないが、短期間の断食ならかなりの人が実行可能である。スクリプス研究所はマウスに8時間のみエサをやるという間歇的な断食条件で飼育したところ、どんなエサをやっても体重は増加しなかった。これは人間では朝食を抜く条件に該当する(最近、朝食を抜くと痩せるという研究が出た)。ヴァルター・ロンゴは癌のマウスを飢えさせた後、抗癌剤を投与する実験を提案した。普通ににエサをやったマウスはすべて死んだが、飢えさせた後に抗癌剤を投与されたマウスは一匹しか死ななかった。人間で行われた実験では二日から五日断食した癌患者に化学療法を行ったパイロット実験がある。何人かの患者では化学療法がよく効いたという。

14章はアルツハイマー病の話。40歳くらいから認知能力が衰えるという。この原因としてベータ・アミロイドが蓄積するという仮説、あるいは、タウ・タンパクの蓄積という仮説がある。運動するとアルツハイマー病が防止できるので、何らかの代謝異常だと思われる。また、手術で二匹の動物の血液が交換できるように接続すると、若い動物の血液が歳取った動物を若返らせる。血液中のGDF11という物質が加齢に関係するかもしれない。15章はエピローグ。

-------ApoB/Aのデータは、University of Iowa Health Careによると、

Apolipoprotein B/A           Male     Female
1/2 Average Risk               0.4      0.3
Twice Average Risk           1.0       0.9
Three Times Average Risk 1.6       1.5

カロリー制限でサルが長生きした話がエサの影響とは知らなかった。朝食を抜くと痩せるというのは、現在、自分の身体で試していて、無理がなく、非常に上手くいくようだ。