2019年7月20日土曜日

Wilderness Medical Societyの高山病予防ガイドライン2019年のupdateの一部紹介

Wilderness Medical Society Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Acute Altitude Illness: 2019 Update の一部紹介


高山病をどう回避するか  

この論文は2017年に富山大学人間発達科学部紀要に掲載した。PubMedで論文検索をして、2016年時点の研究までを含めたレビューになっている。その後の進展としてはレイク・ルイーズAMS自己評価尺度の改訂ほか、いくつもの研究論文が現れている。Wilderness Medical Societyの論文のニュアンスも変化している。高所脳浮腫(HACE: high altitude cerebral edema), 高所肺水腫(HAPE: high altitude pulmonary edema)の治療法が詳しいのだが、急性高山病(AMS: acute mountain sickness)の予防や治療を中心に紹介する。

AMSとHACEの予防 

ゆっくりと登る  これが最善だが、ランダム化比較試験はない。二つの研究によると、2,200m~3,000mに6~7日滞在すると、4,300mに登っても急性高山病のリスクが小さいという。なお、2010年のガイドラインは「標高2,500~2,800メーターへの移動に二日以上かけて、その後、就寝時の標高の上昇を一日に500メーター以下とし、標高の上昇1,000メーターに付き、休養日を一日設ける」である。

アセタゾラミド(商品名:ダイアモックス)AMSのリスクが高い人が高所へ行く場合、強く推奨される。AMSとHACEの予防に有効。アセタゾラミドは高所順応を促進する。運動能力を阻害することはあるが、影響はわずかである。投与量は125mg/12hである。子供では2.5mg/kg/12h。

デキサメタゾン デキサメタゾンは高所順応を促進しないが、AMSとHACEの予防に有効である。投与量は2mg/6hか4mg/12h。子供には使用不可。

イブプロフィン AMSの予防に有効。投与量は600mg/8hである。イブプロフィンの研究が蓄積されたので、はっきり書かれるようになった。なお、これは非ピリン系の鎮痛剤なので、エビデンスはないが、ロキソニンでも効くようだ。

効かない薬物  吸入ブデソニド(喘息治療薬)、ギンコ(イチョウの葉のエキス)のサプリ、アセトアミノフェンは推奨されない。

低圧室と常圧低酸素室 

低圧室や常圧低酸素室が高度順応への準備手段として用いられる。多くの研究があるが結果は一貫しない。低圧室の条件が異なるためであろう。一般的に低圧室での滞在が数時間以内の場合は、高所順応を促進しない。一日に8時間、もしくは、7日を越える場合は、利点がある。もちろん、低圧室の方が常圧低酸素室より高所順応には望ましい。

低酸素テント クライマーがよく用いるが、身体能力を改善するとか、登頂の確率を上昇させるというデータはない。睡眠の質が低下し、長期的には遠征中の身体能力が低下するという欠点がある。

その他

コカの葉を咬んでもエキスを飲んでもAMSの予防に効くという研究はない。また、短期間の酸素吸入に関する研究はなく、一缶2~10Lの酸素吸入が高山病の予防や治療に効果があるとは考えられない。つまり、富士山など利用されている酸素缶には利点がない。

AMSとHACEの治療 

高度を下げるのがベストの治療法である。一般的に300~1,000m下げると症状は消失する。高度を下げられないが、酸素を供給できる場合はSpO2>90%となるまで供給する。持ち運べる高圧室があれば治療は可能であるが、高圧室から出すと症状が再発する。薬物では、アセタゾラミド(250mg/12h)がAMSに用いられる。デキサメタゾンはAMSの治療に効果的で、4mg/6h、子供には0.15mg/kg/6hである。HACEにも用いられる。アセトアミノフェンとイブプロフィンは頭痛に効くが、重篤なAMSとHACEに効くか不明である。


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