2019年7月16日火曜日

Spring Chicken




やっと読んで内容をまとめた。良い本だったようだ。
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Spring Chicken

訳語は難しいが、サブタイトルのstay young forever(永遠に若く)という意味だろう。Business Insiderに紹介記事があり、Biosphereのことが紹介されていた。それで、Biosphereの解説書かと思ったが、アンチエイジングに関する啓蒙書だった。

1章と2章はエピソードとエイジングの話で、あまり印象に残っていない。3章から成長ホルモンの話題になる。1980年代初め、ホルモンが若さの秘密だと考えられ、販売する会社がいくつも現れた。ただ、研究が進むと、ホルモンは加齢を加速するようだった。女性ホルモンは癌化を促進するし、男性ホルモンは心筋梗塞を引き起こす。1997年には成長ホルモンがアンチエイジングの妙薬として脚光を浴びたが、やはり期待とは逆に加齢を促進することがわかった。

4章は加齢の長期縦断研究の紹介で、運動能力が高く、血圧、LDLコレステロール、BMIが低い人が長生きするが、逆の人は老人性痴呆を発症する危険が大きい。5章は100歳以上長寿者の話。長寿者は素晴らしい完全な遺伝子を持っているのではなく、高齢者特有の病気に対する対抗遺伝子を持っているのではないか。6章は問題の中心と称して血管やコレステロールの話。100歳の長寿者はLDLコレステロールが低いということがわかった。一方、HDLコレステロールは高い方が良いようだ。ただ、スタチンでLDLを下げても死亡率を下げることはできない。さらに13万人以上の疫学研究によると、冠状動脈のトラブルがあった人の半数はLDLコレステロールが低かった。コレステロールは生体に不可欠な栄養素である。LDLの数値ではなく、LDLを運ぶタンパク質分子が大きく、数が少ないほど良いという。これがアポBで90以下が望ましいという。一方、アポA-1はコレステロールを除去するタンパク質なので、これは多い方がよい。

7章はハゲの話から始まり、有害な遺伝子の蓄積が加齢の原因ではないかという方向に議論を転換する。8章は細胞に焦点を当てる。正常な細胞では細胞分裂の数に上限があることが1965年に発見され、ヘイフリック限界と呼ばれる。細胞分裂の数を制御するらしい遺伝子配列がテロメアで、これが老化に関係すると言われる。ただ、4500名の大規模疫学研究によると、飲酒や喫煙の要因をコントロールすると、テロメアの長さと死亡率とは関係が無かった。細胞は癌化するか、老齢化するか、どちらかで、老齢化すると慢性的な炎症を起こす。

9章は超肥満と運動の話。フィルはBMIが45で腹回りは身長に近い。糖尿病も患っていた。内臓脂肪はレプチンを少ししか分泌しないので、食欲は抑えられない。内臓や血管と密接に融合しているので、手術で除去するのは難しい。フィルはそういうタイプだった。そこで、ジムに行くほかなかった。また、フライした食べ物やファスト・フード、甘いソーダなどグリルしたチキンや魚、無塩のアーモンドなどに代えた。4年間でフィルは200パウンド減らし、運動を続け、260パウンド以下にしつつある。

10章はシニア大会の参加者の取材から。ブースはミシガン州立大学の生理学の教授で、競技と加齢の両方に関心を持っている。大学では棒高跳びの選手だった。彼はランニングや自転車を続けていたが、シニア大会の棒高跳びの記録を調べると、自分でもできそうに感じた。引退後の楽しみとして、60歳の時に棒高跳びに復帰した。継続的にトレーニングを続けると、癌など、加齢に伴う病気にかかりにくくなる。最大酸素摂取量VO2Maxの低下も小さくなる。トレーニングは慢性的な炎症を下げて、オートファジーがさかんになり、傷んだ細胞を除去する。端的にはトレーニングは若い遺伝子をオンにし、老いる遺伝子をオフにする。ミトコンドリアの機能不全が老化の原因かもしれない。

11章はカロリー制限の話。ルイジ・コーナロ(Alvise Cornaro, 1484-1566, ベニスの裕福な商人)は30代後半に糖尿病にかかり、医者からライフスタイルを変えるように言われたが、従わなかった。症状が進み、どうにもならなくなったので、食生活を、パンを少しとわずかな肉、魚などと薄いスープを摂るだけにした。彼は健康を取り戻し、「おだやかな生活について」(Discourses on the Sober Life)という本を1558年に出した。この本はダイエットの本としてベストセラーになり、あらゆる言語に翻訳された。この本がカロリー制限すると長生きできるというアイデアの原点で、マッケイは1917年にラットでカロリー制限の実験を行い、長生きすることを実証した。カロリー制限下では代謝系が変化するのかもしれない。1990年代、WalfordらのBiosphere 2という閉じた系で暮らす実験を行ったが、食物生産が足りず、必然的にカロリー制限の人体実験となった。飢え死にしない程度の厳しい結果となり、スタッフはやせ細った。Walfordも破壊的影響を被り、Biosphereから出た時は老けてしまった。その後、酷いうつ病になり、パーキンソン病に類似した症状が現れた。神経系も壊れたようだ。彼は2004年に筋萎縮性側索硬化症で死去した。一方、ウィスコンシ大学ではサルのカロリー制限の実験を1980年代から行い、2009年に発表した。結果は衝撃的で、30%ほどカロリー制限したサルが30%ほど長生きし、外見も脳の組織もはっきりと若かった。ところが、アメリカ国立老化研究所のカロリー制限の研究では逆に太ったサルが長生きし、カロリー制限されたサルは平均以下しか生きられなかった。実は、二つの実験ではエサが大きく異なっていた。ウィスコンシン大学のサルのエサは砂糖が30%含まれた精選された穀物だったが、国立老化研究所のサルのエサは穀物や魚などのホールフーズで、砂糖は5%程度しか含まれていなかった。つまり、ジャンクフードなら厳しくカロリー制限しないと長生きできないが、もっと長生きしたければ地中海食が良いということに過ぎない。

12章は冷水浴の話から。人間の身体は冷たい水に晒されると、大きなストレスを受けるが、褐色脂肪組織を活性化させる働きもある。ただ、酸化反応はフリーラジカルを生む。1960年代に老化のフリーラジカル説が完成した。そこで、抗酸化サプリが大量に消費される時代になった。ところが、23万人にも及ぶ大規模疫学研究の結果、ビタミンA, E, ベータ・カロチンの摂取は死亡リスクを高めることが明らかになった。つまり、老化のフリーラジカル説は単純でエレガントだが、間違っていた。抗酸化サプリはトレーニング効果を台無しにするので、無用ではなく、有害である。つまり抗酸化サプリは活性酸素に対する抵抗力をそいでしまうので、活性酸素のダメージを受けやすくなるようだ。

13章は短期間の断食の話。1950年代にスペインの老人ホームで、半数の入居者に食事を通常の分量を与えたが、半数の入居者には量を半分にしたり、2倍近く与えた。その結果、通常の分量を与えた群の死亡者は13名、一方、与える量を変化させた群の死亡者は6名だった。スペイン語で発表された論文なので、長く注目されなかったが、短期間の断食は細胞レベルで代謝を変えるようだ。カロリー制限を続けるのは容易でないが、短期間の断食ならかなりの人が実行可能である。スクリプス研究所はマウスに8時間のみエサをやるという間歇的な断食条件で飼育したところ、どんなエサをやっても体重は増加しなかった。これは人間では朝食を抜く条件に該当する(最近、朝食を抜くと痩せるという研究が出た)。ヴァルター・ロンゴは癌のマウスを飢えさせた後、抗癌剤を投与する実験を提案した。普通ににエサをやったマウスはすべて死んだが、飢えさせた後に抗癌剤を投与されたマウスは一匹しか死ななかった。人間で行われた実験では二日から五日断食した癌患者に化学療法を行ったパイロット実験がある。何人かの患者では化学療法がよく効いたという。

14章はアルツハイマー病の話。40歳くらいから認知能力が衰えるという。この原因としてベータ・アミロイドが蓄積するという仮説、あるいは、タウ・タンパクの蓄積という仮説がある。運動するとアルツハイマー病が防止できるので、何らかの代謝異常だと思われる。また、手術で二匹の動物の血液が交換できるように接続すると、若い動物の血液が歳取った動物を若返らせる。血液中のGDF11という物質が加齢に関係するかもしれない。15章はエピローグ。

-------ApoB/Aのデータは、University of Iowa Health Careによると、

Apolipoprotein B/A           Male     Female
1/2 Average Risk               0.4      0.3
Twice Average Risk           1.0       0.9
Three Times Average Risk 1.6       1.5

カロリー制限でサルが長生きした話がエサの影響とは知らなかった。朝食を抜くと痩せるというのは、現在、自分の身体で試していて、無理がなく、非常に上手くいくようだ。

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