2017年2月1日水曜日

ケトンと乳酸塩は癌細胞を幹細胞化し、再発、転移を促進する


ケトン食(低炭水化物ダイエット、糖質制限)は、癌を育てるようだ。遺伝子解析によって、ケトンと乳酸塩は癌細胞の成長を促進し、幹細胞化して、癌の再発や転移を促進することが分かった。癌細胞が乳酸塩やケトンを利用するのは一般的な現象であり、それ故、乳酸塩やケトンは、まざまな癌の予後を悪くする。乳酸塩かケトンを補充するとコロニーの直径が25%、細胞数は2-3倍になる。やはり、タンパク質は総摂取カロリーの20%以下にして脂質も控えた方が良さそうだ。癌になれば、食事療法ではなく、抗癌剤を使わないといけない。

Ketones and lactate increase cancer cell “stemness,” driving recurrence, metastasis and poor clinical outcome in breast cancer

これは2011年のCell Cycleのオープンアクセスの論文。タイトルは「ケトンと乳酸塩が癌細胞を幹細胞化し、再発、転移を促進するので、乳癌の患者では予後が悪くなる」だろう。著者達は幹細胞化を遺伝子解析で証明している。著作権に触れないように抜粋適当訳する。

我々は、乳酸塩やケトンという高エネルギー生成物が異種移植モデルで、腫瘍の成長を促進することを示してきた。このことは逆ワールブルグ効果を支持する根拠でもある。本研究では乳癌の細胞MCF7を異種移植し、乳酸塩やケトンが腫瘍の成長を促進することを示す。

(ゴチック体の所を中心に、補足しながら)

乳酸塩とケトンはMCF7細胞の遺伝子の転写を変化させる。それらは、幹細胞性に関連した転写プロファイルを誘導する。つまり、乳酸塩とケトンに誘導された遺伝子は、幹細胞性があり、DNA損傷が減少して、乳癌と密接に関係していた。

また、乳酸塩やケトンに誘導された遺伝子は、乳癌と関連し、予後が不良であることを予測した。その遺伝子は、乳癌(luminal A、増殖の遅いタイプ)の再発、転移、総生存率の低下を予測した。

遺伝子の量的な分析の結果、癌細胞が乳酸塩やケトンを利用するのは一般的な現象で、癌細胞の攻撃性が顕著となり、それ故、人間のさまざまな癌の予後が悪くなるようだ。乳酸塩とケトンは本当にES細胞の成長を促進する。乳酸塩かケトンを補充するとコロニーの直径が25%、細胞数は2-3倍になる。

癌幹細胞のアキレス腱は乳酸塩とケトンをミトコンドリアでの酸素代謝の燃料として利用することだろう。

メトホルミン(抗癌剤)は、ミトコンドリアの新陳代謝を妨げて、癌細胞にワールブルグ効果(好気性解糖)を引き起こす。それで、メトホルミンはミトコンドリアに対する弱い毒として働き、癌幹細胞を殺す。好気性解糖を導入することは、癌の原因ではなく、癌の治療であるかもしれない。


ワールブルグ効果


癌細胞や他の細胞が分裂して成長する時、ブドウ糖摂取量が大きく増加し、酸素が十分にあっても、ブドウ糖を発酵して乳酸を作るようになる。これをワールブルグ効果という。ATPを生産するのに、好気性解糖によるATP生産は、ミトコンドリアの呼吸より非効率であるが、ミトコンドリアでブドウ糖を完全に酸化するより10-100倍速いという。一方、ミトコンドリアがATPなどの生産の中心なので、ワールブルグ効果が生合成を促進するはずはない。90年以上、研究されてきたが、ワールブルグ効果では癌発生や増殖を説明できない。


逆ワールブルグ効果(Reverse Warburg Effect)


最近、Lisantiらによって提案された。このモデルでは癌に伴う繊維芽細胞が自食作用とミトコンドリア分解で好気性解糖を行い、線維芽細胞で高エネルギーの代謝物を作り、癌の上皮細胞に渡される。

この図はWarburg effect or reverse Warburg effect? から引用


The Warburg Effect: How Does it Benefit Cancer Cells? 

2016年のCellのレビューがオープンアクセスだった。著作権に触れないように抜粋して適当翻訳した。

1920年、Otto Warburgらが腫瘍が大量のブドウ糖を消費していることを発見した。さらに酸素があっても、それを使わず、ブドウ糖を発酵して乳酸を作った。これを好気性解糖aerobic glycolysisと呼んだ。それで、腫瘍を殺すには酸素とブドウ糖を排除すると良いと考えた。後にWarburgはミトコンドリアの異常が癌の原因であると推論した。そこで、発癌の原因として、好気性解糖とミトコンドリア代謝が研究されるようになった。

ATPを生産するのに、好気性解糖はミトコンドリアの呼吸より非効率であるが、ミトコンドリアでブドウ糖を完全に酸化するより10-100倍速い。これはエネルギー源が限られる時には進化的に有利に働く。これがワールブルグ効果の合理的根拠の一つになる。

ワールブルグ効果は無秩序な細胞増殖に必要な生合成を得るための適応メカニズムとして提案されてきた。増殖する細胞はNADPHという形の物質を大量に必要とする。ワールブルグ効果について、ある仮説では、NADPHからNAD+を再生産するという。もう一つの仮説では好気性解糖は生合成のトレイドオフであるという。好気性解糖と細胞の成長や増殖は相関があるので、これらの仮説は魅力的である。

しかし、難点がある。好気性解糖の時、ほとんどの炭素は乳酸になる。それで、ブドウ糖の一つの分子は二つの乳酸分子になるだけで、NAD+やNADHは増えない。さらに、ミトコンドリアがATPなどの生産の中心なので、ワールブルグ効果が生合成を促進するとは思えない。

ブドウ糖を乳酸に変換すると、細胞の環境中のpHが下がり、酸性になるので、癌の成長には好都合の環境になる。つまり、ワールブルグ効果は、癌を促進するが、それは発癌の初期や傷害時のみに働く。

我々は、ワールブルク効果に腫瘍細胞に直接的に信号を送る機能があると考える。しかし、好気性解糖が癌細胞とって全体的に有利な環境になるので、特別な経路を想定することが難しく、また、検証も困難である。

ワールブルク効果に関する研究が多く行われたので、腫瘍の増殖に関する知識は増えたが、残念ながら、癌発生に関してはほとんど分かっていない。